ニット工場とITとの意外な関係性

2021年4月30日

先週末、墨田区にあるニット工場「ホリゾン株式会社」へ工場見学に行ってきました。

元々、ここ墨田区をはじめとする東東京の界隈では、江戸時代に下級武士の内職として、縫製業は広く行われていたとのこと。
その名残もあって、今も縫製業を営んでいる工場が多いそうですが、中でも機械を使って縫製を行っている会社は、墨田区ではここホリゾンを含めて三社しかないのだそうです。

工場の中には、計12台の編機があり、ゲージが違ったり、編めるものが違ったりするそうです。
編機の中には、たくさんの針が敷き詰められて、1インチの幅に何本の針があるかというのを、「ゲージ」という単位で表します。
数字が大きいほどより細かな縫製ができるので、例えば14ゲージの機械で作ったものの方が、7ゲージのものよりも、より細かな編目になるということになります。

ここでの編み物はすべてデジタル化されていて、パソコンの中でプログラミングされたものを機械に持っていって編み出す作業をしています。
まず最初に、実際に試しにテストで編む時に「ゲージを取る」という作業が必要となります。
上の例では、ベートーベンの写真にある四角が縦横比を表すものですが、修正前のものを見て「やや顔が丸っこいな」ということで、やや縦長にして修正を行ったとのことでした。
この最終的な縦横比を決める作業が、「ゲージを取る」というものになります。

編み機には、それぞれの糸を混ざらないように運ぶための、複数の「キャリア」(写真左)というものがあり、手前から1番、2番…と番号が付いています。
これをプログラミングにより、「1番目のキャリアは、~段目まで来たら、糸を切って天竺編みをする。」というような具体的な指示をさせることで、自動で作成する仕組みを作っていきます。

プログラムもできて、かつ糸のこと、機械のことも分からなければならないと、覚えることも多く、割とハードルが高い技術職なのですが、その割にそれがなかなか賃金につながらない、というのが現実とのことでした。

続いては「ホールガーメント」機と呼ばれる機器の紹介。
この機械の特徴は、表裏両面に2つの手があるので、円状、筒状のもの編むことができるということ。
これで靴下、マスク、セーターなどを編むことができるのだそうです。

でき上がった製品は、中性洗剤を入れてお湯に漬け、洗濯をする「縮絨(しゅくじゅう)」という作業を行うことで、繊維をキメ細かいものにしていきます。
上の写真の左右が、その前後のサンプルとなります。

ホリゾン株式会社では、カシミヤ山羊を育てている自社牧場をモンゴルに持つということで、原材料から自社で調達するしくみがあるそうです。
サスティナブルなカシミヤ産業、および現地の人達への雇用創出の一助になるというところが、目指すところなのだそうです。

工場の2階が直営の販売店になっていて、同時にカシミヤ製品のセールも行われていたので、せっかくだからということで、写真のニットを一着購入してきました。

機械の動かす仕組みをプログラミングするとか、クライアントからの注文は「仕様書」でいただくとか、機械の調子が悪い場合どこに原因があるのかの「問題の切り分け」とか、ITを生業とする自分にとって、馴染みのある言葉が出てきたところが、とても印象的に感じる工場見学となりました。